006    講話・講演一覧  HOME  
  「仏教における生命倫理」〜ガン告知から臓器移植まで〜
2005.06.30 金沢大学医学部での講義 医学概論

2005/6/30 「仏教における生命倫理」〜ガン告知から臓器移植まで〜(84分) mp3/38.5MB
ダウンロードで購入
 
 
   今日、医学は、行き着くところまで来てしまった観があります。一昨年のクローン人間誕生の報道以来、生命倫理が厳しく問われるようになりました。しかし一方、医療は、極めて日常的な患者さんを扱っています。風邪を引いた、お腹が痛い。早く治してください、という事が医療の現場では行われています。従ってクローンのような先端技術は、地球上の六十億のうち、わずか数十人、ないしは数百人に過ぎない。しかし、これが世間の批判を浴びましたのは、生命倫理の崩壊であります。この事が社会問題化したわけであります。
 技術上の問題もないではありません。しかし、自然科学は、どこまで人間の生命に踏み込むことができるのか。どこまで自由に生命をいじることができるか。いままで視野にもなかった問題を投げかけたのがクローンでした。人間は、神仏の采配に任せてまいりました生命のカギを手に入れてしまった。これをどこまで容認するのか。医学に新たな課題が突きつけられております。
 一般の医療は、もっと素朴なものです。昔と同じように患者さんのニーズに答えなければなりません。しかし、医療の進行速度は、想像以上に速い。その先端医療のニーズと一般医療とのギャップに、私たちは悩まざるをえないわけであります。さて、本日は、ガンの告知、ホスピス、臓器移植について考えてみたいと思います。ガンの告知は、すでに四十年ぐらい前から問題になりはじめまして今日に至っております。  話題になりはじめた当時、ガンで亡くなる方は、十万人ほどだったと思いますが、今日では二十万人を越えております。この増加は、ストレスなどの外因性もありましょうが、おそらく診断学の進歩も関係しているのではないでしょうか。しかし、やはりガンによる死亡者の数が断然トップであります。日本人の食生活もアメリカ式になってまいりまして、脳や循環器系統で亡くなる方の数も増えておりますが、ガンが死病であることに変わりはありません。ベテランのお医者さんならば、どなたも経験されておりますが、ガンの病名を患者さんに告げるべきかどうか。  ガンの治癒率は、年々向上しております。骨髄性白血病、先日も元アイドルだった本田美奈子さんがこの病名を知って治療に専念されると言う報道がございましたが、十年ほど前には俳優の渡辺謙さんが、やはり骨髄性の白血病でした。しかし、いまは、立派に国際俳優として活躍しておられます。こうした例を拝見しておりますと、もう不死の病は、完全に克服できたかに見えます。しかし、ガンと聞けば、患者さんのショックは想像以上のものがございます。ガンが完全に克服され、ふつうの風邪のように治療法がある程度完成していれば、もう戸惑うことなく告知できるのでありますが、やはり死病に変わりはありません。
 最初に申し上げておきますと、私は、告知をすべきと考えております。仏教における死生観は、のちほどたっぷりとお話いたしますが、告知をすることによって人間は、あらたな智恵を働かせます。精神的ショックは、確かに大きい。しかし、智恵が生まれる。四十年ほど前までは、絶対に教えてはならない、と教えられてきました。レントゲン写真をすり替えても誤魔化し通すのがお医者さんの腕でした。
 私の知り合いのお医者さんは、それを大学の恩師にされたことがあったそうです。私の友人は胃腸内科が専門でしたが、卒業後、十数年の間、母校の大学病院に勤務しておられまして、そこへ恩師が入院して来られた。検査致しますと、これが立派な胃ガンでございます。恩師の弟さんを私の病院に呼びまして、病名を告げます。当時は、奥さんにも告げられなかったのです。女性は、顔にあらわれるから絶対に教えてはならない、と先輩から伝えられていたわけです。
 私の知り合いは、胃潰瘍の別の患者さんのレントゲン写真を見せまして、なんとか手術の承諾を頂いて、無事に患部を切除致しました。ところが、予後の事がございます。ここで一気に叩いておきますと、治る確立が高い。しかし、抗ガン剤を使いますと、すぐにバレてしまいますから、当然に使われるべき化学療法剤を投与できなかった。
結局は、先生は亡くなられてしまった。あの時、本当のことを告げて治療にご協力が得られていれば、もう少し延命して頂くことができたのではないか。私の知り合いは、あとになって随分と悩んだそうであります。(
84分)




「仏教における生命倫理」〜ガン告知から臓器移植まで〜 金沢大学医学部 006 
 
   
   
   HOME                                     TOP 
「仏教における生命倫理」〜ガン告知から臓器移植まで
2005/6/30 金沢大学医学部での講義 医学概論

Copyright 2011-2014 SIS